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アサドリの日記帳です。主にロックマンと日常。
2024/11/22  [PR]



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まだ続いてました。そしてまだ続きます。
そして古い章も逐一直してるのでもう作者以外には何が何やら。
本家の明るい路線から遠くかけ離れていくばかりです。後悔は一切ないけど。



レリクト12
 プロローグ~第二章
 第三章
 第四章

 ※かっこいいナンバーズは登場しません



第五章 追撃


 十分遡り、アパレルショップ。
 魚に似たアーマーのロボットが駆け寄り、傷ついた子供型ロボットの胸部を開いた。そして自らの右膝の関節を開き、中のケーブルと思しきものを数本引き抜く。
 その時ちらりと、その関節に見慣れない金属を見た気がした。
(今のは?)
 九歳とはいえ、彼女も世界的ロボット工学者の娘だ。その時々のありとあらゆるロボットに、それこそ生まれたときから日々接している。が、あんな光沢の金属や塗料は覚えがなかった。
 半魚人ロボットがケーブル片手に子供の修理を始め、彼女の目はそちらに引き戻された。角度が悪く、子供の機構は覗けない。だが、それを直してやる仲間の手つきはどこか優しげに見えた。
 そして、低い声。言葉は分からないが緩やかに節回しがある。歌だ。
 その周囲で、破壊された人質ロボットのうめき声がする。誰も彼もこれほど近くにいるのに、手をさしのべる事さえできない。
 なぜ争っているのだろう、私たちは。
 理由はいまだ知れない。が、自分たちと彼らを深く隔てる何かが、彼女にはただ悲しかった。

 *  *  *

 敵一体の身柄を拘束した。ビル外のメタルマンにそれだけ通信を送ると、虚脱の体でカットマンは床を見下ろした。隣のスカルマンも黙りこくっている。
 理由は分かっていた。足元に転がる「敵」だ。
 その首筋の裂け目はたった今カットマンがつけたものだが、そのほかの傷。
 大小無数の傷。戦闘用ロボットとしても異常な多さだ。
 二人は顔を見合わせた。どちらもが全く同じことを思っているはずだった。
 こんな体で戦っていたのか。。
(……そして、こいつは仲間を助けて、身を捨てた)
 カットマンは見逃したようだが、スカルマンは見ていた。この敵の投げた輪が吹抜を飛んだとき、落ちてきた小さい影を吸い込むのを。スネークマンが話していた子供型ロボットに違いなかった。

 *  *  *

 報告を受けたメタルマンは、じわりと妙な違和感を覚えた。
 解せない。実に不合理だ。
 彼らの行動がである。準備が足りなすぎるのだ。これまでにこちらが遭遇したトラップはわずか一カ所、それもその場の布地を利用した間に合わせで、他は全て彼ら自身がわざわざ出張って来ている。結果、確かにこちらに重傷者は多く出たが、相手の犠牲も少なくない。勘に過ぎないが、割合的にはむしろこちらより多いかもしれない。個体の強さで辛うじて持ちこたえているに過ぎないのだ。
 にもかかわらず、地の利を生かそうとしていない点もおかしい。前述のトラップもそうだが、防犯カメラを破壊しているところが妙だ。ビル外からの遠隔操作を警戒したのかもしれないが(そして事実、自分たちはその方法でカメラを止めたが)、このビルの地下の制御室を押さえてしまえば外からの操作は効かない。逆に彼らの方が、このビル内部全体を見渡す目を得ていたはずだ。
 テロリストと定義するには、全てが場当たり的すぎた。

 *  *  *

 五分遡り、アパレルショップ。
 カリンカが聞いたのと同じ歌をロールも聞いていた。内容は知れないが、怪我にうめく子供をあやしているのは分かった。
 彼女にとっても辛い光景だった。敵も味方も、いたずらに負傷者ばかりを増やしている。
 ふと、違和感。
 ――歌の内容が分からない。
 どういうことだろう。そう言えば、初めからおかしかった。
 カリンカと違い、ロールはロボットだ。堪能な物からかじった程度まで、心得のある言語は数十カ国語に及ぶ。
 そして現在、世界のロボットは国連公用語の習得を義務づけられている。何より、ロボット工学が発展している地域そのものが欧米や東アジアに大きく偏っており、母語となる言語も当然限られている。マイナー言語の使用はもちろん自由だが、上記の理由で特にメリットがないため、使用するロボットはまず皆無である。
 なのに、このロボットたちの言葉はこれまで、ただの一単語たりとも聞き取れないのだ。
 ――この人たちは、一体。
 突如、隊長機が立ち上がった。そのまま何かを全員に告げる。呼応して、部屋のロボット達が立ち上がった。間をおかず、戦車のようなロボットが駆け込んで合流する。
 緑色の半透明のロボットが人間の人質を二組に分ける。今もなお床に転がる人質ロボット、そしてロールとカリンカ二人を置き去りに、残り数名の人間を引っ立てて裏口の螺旋階段へ消えた。
 戦車と隊長機が続き、半魚人も子供を抱えてこちらを促す。
 ロールはカリンカに手を伸ばした。固く手を握り合い、少女二人はそろそろと裏口をくぐった。
 その後ろから半魚人が滑り込み、裏口ドアを閉める。
 直後、ドアの向こうから声。
「逃げられた!」

*  *  *

 アパレルショップには、人質のうちロボットだけが半壊状態で置き去りにされていた。
 テロリストの姿はない。ロール、カリンカ、そして人間の人質もいない。連れ去られたのだ。
 ――が、どこへ?
 思い当たって愕然とした。ここは角部屋じゃないか。
 同時に、もっと恐ろしいことに気づいた。
 姿ばかりが消えたのではない。センサーの反応ごとそっくり消えているのだ。
 そんな。ついさっきまで感知していたんだぞ。人質の人間たちも、そしてロールも。
 それがほんの数瞬で。

*  *  *

 鳥型のロボットが空中できびすを返した。逃げる気だ。
 そうは行くか。とっさに二階吹抜周り通路から身を乗り出し、エアーマンは相手に一撃を見舞った。エアーシューター。予想外の突風に煽られて相手がバランスを崩す。そこを狙いすまし、ニードルマンが針の連射を……
 頭上から悲鳴。吹抜じゅうを揺るがすような声に一同は凍り付いた。
 最上階――四階の空中通路から人間がぶら下がっている。
 人質だ。
 二人一組が二組の、合わせて四人が、両腕を縛られて吹抜に吊されていた。アパレルショップから盗ったと思しきベルトの他に支えも持たず、頭陀袋のように空中を揺れている。
 馬鹿な。どこから現れた。彼らは三階にいたんじゃなかったのか。
 そして、その手すりの内側。ずるりと湧くように人影が立った。
 半透明の液体金属のような――
 あいつだ。半魚人と組んでいた。
 それが人質の吊られたベルトのすぐ向こうから発砲し、二・三階の一同は慌てて身を隠した。まさか撃ち返すわけにはいかない。
 その間に、鳥のような緑のロボットがアパレルショップへ飛び去った。
 体よく足止めされた格好で、エアーマンは地団太を踏んだ。
 そのエアーマンの肩を誰かが叩いた。ニードルマンだ。
「おいみんな、ちょっと聞け」
 他の仲間――エアーマン、アイスマン、マグネットマンに、彼は素早く何事か囁いた。

*  *  *

 その声に聞き覚えがあった。
 ああ、エレキ! 来てくれたの。ロールが思わず振り返りかけたその時、ぱつんと回線の開く音。
 はっと顔を上げた。誰。
 まさか……
〈ロール君か、こちらは国家安全省だ〉
(…………え)
 突拍子もない名称に、ロールは呆然とした。
〈顔色を変えずに聞いてくれ、連中に悟られたくない〉
〈は、はい〉
 つとめて何でもない風を装い、ロールは答えた。
〈辛い知らせをせねばならない。落ち着いて聞いてほしい。――ロックマンは、死んだ〉
 一瞬、思考が止まった。

*  *  *

「消えた?」
 エレキマンからの通信に、ビル外のメタルマンは呆気にとられた。
〈ああ、もぬけの空だ。おまけにロールもカリンカも、人質全員の反応がない〉
「それはつまり」
 まさか。最悪の疑念が脳裏をよぎる。
〈いや、違う、と思う。その形跡はない〉
「ならどこへ行ったんだ、そのロボット共も、人質も。その部屋はドン詰まりなんだろう」
 その時、一本の通信が割って入った。エアーマンらと行動をともにするアイスマンだ。
〈待って、人質だ!〉
 同時にアイスマンの視覚情報が送られてき、メタルマンは吊される四つの影をはっきりと見た。
「四階!? 馬鹿な、階段はずっと手前だぞ! どこから……」

 *  *  *

 窓を避けて身を屈めるおかげで、行軍はスローだった。
 考える余裕はいくらでもあるくせに、ロックが死んだというその言葉はロールの脳に入らないまま、脳の表面を上滑りしていくようだった。
〈保安上秘密にしていたのは申し訳ない。だが今、君の助けが要る。これは彼の――ロックマンの為でもあるのだ〉
〈どういう、ことですか〉
 そろそろと階段を這い降りながら、ロールはぼんやり通信を返した。
 一拍の間。
〈彼を殺したのが〉
 その声は、馬鹿に大きく聞こえた。
〈君らを拘束している、そのロボットたちだからだ〉
 足がもつれた。慌てて支えてくれるカリンカの腕を漠然と感じた。
 ――どういうこと。この人たちが。
 すぐ後ろで幼児のうめき声。
 あの子もなの。

 *  *  *

 背後にブースト音、振り返るまでもなく正体は分かっていた。あの鳥野郎だ。
(電気勝負か、上等だ)
 応急処置を施した人質ロボットを後ろにかばい、だんと踏み出した。つられて相手が大きく下がり――予想通り後ろの壁に激突する。慌ててよろける相手の右腕に亀裂が入ったのを、エレキマンははっきり見て取った。
 こいつは屋外用のジェットタイプだ。狭い部屋で小回りなど利くはずがない。
「お前の土俵に上ってやったろ。こんどは俺のフィールドで遊んでもらうぞ」
 にやりと笑みがこぼれる。怒りか快感か、自分でも定めがたかった。

 *  *  *

 こちらをあざ笑うように、相手は人質のベルトの陰から撃ってくる。こっそりと覗いたニードルマンのすぐ横で弾がはじけた。
「本気なの」
 背後でアイスマンが囁く。
「冗談こいてる場合かよ」
 つとめて軽く言い、ニードルマンは相手をにらんだ。
 勝手放題もここまでだ。見てろ。
「――三、二、一!」
 叫ぶや大きく踏み出し、一気に人質全員を撃った。
 そこを狙い撃ってきた相手の弾が自分に食い込むのと、自分のニードルが人質のベルトを切断するのが同時だった。
 倒れ込む刹那、ニードルマンは横に誰かの気配を感じた。アイスマン。意表を突かれたじろぐ相手を、高速のアイススラッシャーが過たず見舞う。
 絶叫。床に溶け込みかける姿をそのままに、相手は一柱の氷像と化した。
 同時にエアーマン、マグネットマンが動いた。エアーシューターが人質の一組を浮かせ、残り一組のベルトのバックルをマグネットマンが引き寄せる。
 四人の人間全員が無事にこちらに立ったのを見届けた途端、ニードルマンの視界は暗くなった。

 *  *  *

 ロールに考える暇を与えず、相手が畳みかけてくる。
〈すでに君らの仲間が突入してくれているが、状況は極めてまずい。あまり長くは持つまい〉
 待って。この上みんなまで喪うというの。
 あり得ない話ではなかった。――何しろ、彼らは人質のロボットたちをあんな風に。
〈ロール君。そちらの居場所をすぐ、私だけに流してほしい。この回線は偽装してある、盗聴のおそれはない〉
 一切の音を忘れ、彼女はその言葉に耳を傾けていた。ある決意がじわじわと意識を塗りつぶしていく。 
 そこに、最後の一言が届いた。
〈君の情報をもとに、連中の隊長機を狙撃する〉

 *  *  *

 至近距離での撃ち合いの末、詰め寄って思い切り振り降ろした婦人物のコートを、予想通り相手は腕で受け止めた。
 その瞬間、激しいスパーク。コートに溜まり、触れた傷口へと一気に流れた電気は、確実に相手を内側から仕止めていた。
 たかが布と侮るなよ、裏地は化繊なんて常識だろ。
 一息ついたとき、ハードマンとジェミニマンが駆け込んできた。
「大丈夫か、エレキマン」
「ああ。見ての通り連中には逃げられたが、人質数名は保護した」
 三人がかりで人質の応急処置をしながら、エレキマンはふと傍らの鳥型ロボットに目をやった。それはまだ微かに痙攣していたが、意識のあるようには見えない。
 ――にしてもこいつ、なぜこの場に戻ってきた?
 不意に疑問が沸いた。こんな無人の角部屋に、もう用はないはずだ。
 それともまだ何かあるのか、ここに。

 *  *  *

 アイスマンをつけて人質四人を脱出させたエアーマンとマグネットマンに、カットマンとスカルマンが合流した。
 敵ロボット一体が二人に連れられていた。後ろ手に括られてはいるが、意識を保つのがやっとのようで、支えた手を二人が離した途端に床にくずおれてしまった。
 もはや何の脅威でもなくなった相手――元は茶色だったらしい外装のロボットを、四人は黙って見下ろした。正体のつかめなかった敵を初めて間近で見たわけだった。

 *  *  *

〈……何だ、こりゃ〉
 エアーマンの声、同時に彼の視覚情報が送られてきた。視界に大写しになった敵の姿を見て、メタルマンは唖然とした。
 相手の全身には大小さまざまの傷、どれもが模様とまがうばかりに外装と馴染んでいる。考えようもなく古い傷だった。人間並のロボットが歴史に登場したのは、ここ十年ほどのはずなのに。
 そして、そこから覗く配線やら部品のような物。「のような物」としか言えなかった。互換性云々どころか見たこともない機構だ。

 *  *  *

「あの」
 唐突な声が、エレキマンを現実に引き戻した。
「あいつら、人間の人質を連れて……あっちへ」
 人質ロボットの一人が指さした。つられて見た先は……奥の壁。
(何だ、あれは)
 バリケードよろしくごたごたと物が積まれた、その山の隙間。ちょうど大きめのロボットが通れるぐらいに空いたその奥に……
 ――裏口?
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