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アサドリの日記帳です。主にロックマンと日常。
2024/03/29  [PR]



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3月は放ったらかし小説群強化月間

と、かつて書いた気がするんですよ更新履歴に。
ええ、2ヶ月ほど前。この手で。

洛克人大戰解説Wiki(編集権限私にしかないけど)を軌道に乗せた余勢を駆って
一気に仕上げてしまいたかったんですが、準備不足がたたった格好です。
でもいつまで引っ張っていても仕方が無いので、
これまでどおり、できた分から上げていくことにしました。

できてないけど。

ともあれ、以前ここにのっけたものの続きをどうぞ。


レリクト12
 ※プロローグ~第二章はこちらから
 ※かっこいいナンバーズは登場しません




第三章 攻城戦


「お嬢様! カリンカ様!」
 カリンカの姿をおろおろと探し回るコサックナンバーズの傍らで、ライトナンバーズもまた血眼になっていた。
 姿が見えない。カリンカも、ロールも。
 先ほど解放された人質は奇跡的にほとんど無傷で、女性が一人脱出の際に転んで捻挫をした程度だった。だが念のため、彼らは全員が最寄の大学病院に送られ、精密検査と併せて事情聴取が行われた。
 そこからようやく、内部の状況を断片的にしろ掴むことができた。
 彼らは三階の、吹き抜けを囲む通路沿いのアパレルショップ内に集められていたそうだ。いずれもたまたま近くにいた客や店員で、突如なだれ込んできたロボットたちに銃を向けられ、あっという間に制圧されたと語った。
 相手の人数ははっきり分からないという。みな座らされ、下を向かされていたからだ。「五人以上はいたと思う」という証言だけが辛うじて得られた。
 そして解放されたのは全員、人間だった。三階から一階に直通で降りる正面階段へまとめて引っ立てられ、発砲(武器による怪我人がいないため、威嚇射撃と推定される)で追いやられたとのことだった。
 しかし、病院にも現場にもカリンカの姿はない。ロールも同様だった。
 人質の中に二人らしき少女を見かけた者は複数いたが、あの混乱の中彼女らがどうなったのか、はっきりと見ていた者はいない。
 そして警備員や客として居合わせたロボットたちは、話によれば「力任せにばらばらにされた」という。この情報が流れたとき、ライトナンバーズは一様に暗いうめきを洩らした。
 傍受を恐れ、ロール始め内部のロボットに通信は一切送っていない。つまり、こちらから内部を伺い知るよすがはないのだ。
「くそ、どうするつもりだ」
 ボンバーマンが思わずビルを見上げた。
 二人はまだあの中にいる。だが消息は知れない。 
「作戦を変えよう」
 ぼつりとメタルマンが言った。
「手勢が多いせいで甘く見すぎたが、シャレの通じる相手じゃねえな」
 一同が、しんと彼を見返す。
「総力戦になるぞ」
〈すると?〉
 ややあって、国家安全省の担当高官が口を開いた。
「言ったとおりだ。うかつに入れば間違いなくツブされる。何とかしたきゃこっちも……」
 一拍ためらい、メタルマンは吐き出した。
「命張るしかねえ」
〈殺し合いになるというのか。それはいかん、極力拘束を前提に……〉
「じゃあどうやれってんだ、連中はロックマンを……ロックを殺した奴らだ! ロールだってまだ中に……」
「カリンカ様も戻っておらんのだぞ、そんな場所に丸腰で行けるかッ」
 メタルマンを押しのけてライト・コサックナンバーズが声を荒げ、高官は慌ててなだめる口調になった。
〈君たちを否定する意図はないが、わが国は平和に基づいたロボット技術立国をタテマエとしている。加えてここは市の中心部だ。相手の素性が分からないのは確かにネックだが、荒事になっては世論が納得せん〉
「不可能だ」
 言下にクイックマンが切り捨てた。
「立場うんぬんを言うなら、ワイリーナンバーズは世界中いずれの勢力にも属さない武装中立組織だ。それに、我々の仲間も安否が知れないままなのでな。こちらにボールを投げた以上は任せていただく」
〈しかし〉
「第一、人質のお嬢さん方を死なせてみろ。世論どころか国際問題だぞ」
〈…………〉
 なおも言葉を探す相手に、他の一同は無言で応えた。高官はため息をつき、続けた。
〈止むを得ん。その条件は認めよう。ただし保安上、君らの動きは追わせてくれ。アイカメラ、イヤーセンサーその他から得た知覚情報を全てリアルタイムで流して欲しい。無論、テロリスト全員の身柄を確保した時点でこのトレースは終了する〉
「オレたちは構わん。すぐに行動に移らせてもらいたい」
「ふん。鬱陶しいがまあいいだろう」
 リングマンとメタルマンが間をおかず答える。これで決まりだった。

  *  *  *

 速やかに人質を解放して投降しなさい。沈黙の中、スピーカーのがなる声だけが響く。
 ライト・コサック・それにワイリーナンバーズたちは、ビル周囲に待機したままそれを聞いていた。
〈念のための最終警告だ。五分待って反応がなければ、突入の指示を出す〉
 そう言われている。
 一分。二分。のろのろと時間が流れていく。
「その時」が来なければいい。中の連中が白旗を揚げてくれればいい。みなそれだけを願っていた。
 が、その五分が過ぎ、さらに十分が経っても、ビルには動きひとつ見えない。
 警告から三十分が経過した。
「……なあ、これっていつまで」
 ドリルマンが隣のスパークマンに囁いた瞬間、全員の通信回線が開いた。
「!」
 弾かれたように顔を上げた一同の回線に、音声が飛び込んだ。
〈突入を許可する〉

  *  *  *

 駅からの連絡通路。例のロボットたちの侵入経路である。
 ここはそのまま、ビルの吹き抜けを囲む三階通路に通じている。
 途中に二カ所、横道がある。一階メインエントランスに続く中央階段、吹き抜けをまたぐ空中通路だ。
 それらに入らず通路をそのまま進んだ突き当りが、人質(と恐らく例のテロリストロボットたち)のいるテナントだった。
 つまりこの通路をまっすぐ行くのが、外から彼らへの最短経路だ。
 連絡通路のどんづまり、ビルへの入り口にぴたりと貼り付いているのは、チャージマン、ジャイロマンら機動力に長じた数名。防御用にウッドマンの姿もある。
 その眼前には当然のようにバリケードが築かれていた。その辺の店から盗ってきたらしい電化製品やら机やらが入り口を完全にふさいでいる。その山は天井まで達しており、取り除くにはひどく手間がかかりそうだった。
〈……人間が五名、ロボットが一名。反応からすると恐らくロール嬢だ。他の気配はない、ね〉
 向こうの様子を探っていたタップマンが、全員に通信で囁く。ノイズに偽装しているため、ワイリー・ライト・コサックナンバーズ以外に気づかれる心配はなかった。恐らく。
〈ほんとに大丈夫なんだろうな、あれ?〉
 ハードマンが頭上の防犯カメラを見上げた。
 連絡通路手前のこのエリアのカメラは壊されていない。が、ビルの管理会社が外部操作でビル内の防犯装置を全てオフにしたため、テロリスト達がモニタールームに行ったとしても防犯カメラを利用するのは不可能だ、という。
〈まあ、一応は信じられるんじゃねえのか。何てったってニオイのねえ奴ら相手だ、支援にもこんくらい手間かけてもらわねえと〉
 ジェミニマンが答えたが、やはりその顔は心もち強張っている。
(気配がない……か)
 クイックマンは心の中でつぶやいた。
 ワイリーや、ドクター・ライトですら実用化できていない完璧なステルス技術だ。間違いなく手ごわい。
(しかし何だ、この違和感は)
 漠然と胸の中に浮かぶそれの正体を探りかね、彼は目の前のバリケードを見上げた。
〈……行くぞ〉
 チャージマンの低い声が、全員を現実に引き戻した。
 彼はゆっくりと突撃の体勢をとり……
 両足のホイールから火花を散らし、急加速でバリケードを突き破った。

  *  *  *

 他方、社員通用口入ってすぐ。
 真横に瓦礫の山が見える。ダストマンは胸が痛んだ。その下に仲間がいるのだ。
〈おい、聞こえるかい〉
 送ったシグナルに、すぐ返事が返ってきた。
〈……きこえる〉
 ブライトマンだ。音が弱い。
〈……だいじょうぶ、みんないきてる〉
〈分かった、頑張れ。すぐに出してやるから〉
〈……うん、おねがい〉
 上方から、どーんと重い音が響いた。
〈おっ始まったな〉
 ウェーブマンがつぶやいた。背後の一同……「本隊」メンバーの顔がさっと引き締まる。
 連絡通路のメンバーを陽動に、裏をかいて一度失敗したこの通用口から侵入する作戦だった。
 その音に紛れ、ダストマンは少しずつ瓦礫を吸い込んでいった。彼一人は仲間の救出担当である。
 ドリルマンが顔を上げた。
〈よし、みんな行くぞ〉
 瓦礫の陰に身を潜めたまま、彼は壁に突入用の穴を開け始めた。 

  *  *  *

 水に潜ると、アーマーの隙間から空気がごぼごぼと漏れた。
〈気泡は最初に全部出し切っちまうんだ、でないと見つかるモトになるからね〉
 バブルマンは、背後のエレキマンに声をかけた。
〈……わかった〉
 エレキマンも相手に倣い、体を動かして気泡を出した。
〈しかし、あんたらと共闘するハメになろうとはな〉
 エレキマンは苦笑交じりに言った。
〈僕らも予想外だったよ。ま、背後から狙うのだけはよしてね。あんたの武器、ここで使われちゃイチコロだから〉
〈ああ、気をつけておく〉
〈準備できた? じゃ、行こうか〉
 上水道の太いパイプ内を、二人はゆっくり泳ぎ出した。
 このパイプはビル裏手から続き、いくつもの枝分かれを経て、ビル四階部分から吹き抜けの空中に張り出したディスプレイ用の池に通じている。うまいことに人質のいるテナント向かいで、そこより低い三階からこの池は覗けない。池への放水口は、金網さえ外せば人が充分通れる大きさだという。
 陽動部隊とも本隊とも離れ、二人はそこを目指していた。万一のための保険とも言える第三班だった。

  *  *  *

 ど、と足元がの地面が膨れ上がった。
(!?)
 思う間もなくすさまじいインパクト。耐え切れずチャージマンの意識は消し飛んだ。
 爆音と空気の塊に叩き伏せられ、気づくとジェミニマンは床に倒れこんでいた。どうにか上半身を起こすと、辺りはもうもうと粉塵が立ち込めている。
 すぐ近くにチャージマンが横たわっている。が、何かおかしい。
 その右ひざから下がきれいに無くなっていた。
「チャージっ」
 そのとき、吹き抜けからの風が土煙をさあっと押し流し……
 自分たちが倒れている床に点々と置かれているポッド状の物体を、彼の目は捉えた。
 地雷。
 そしてそのすぐ向こうの、仁王立ちの影。 
 あ、あ、やばい。
 「……逃げろ!」
 とっさに叫んだ声を掻き消し、相手が突進してきた。

  *  *  *

 ずーんと重い音が壁を揺るがし、どっと壁が、次いで天井が崩れてきた。
「!」
 とっさに身をひき、辛うじて避ける。本隊メンバーが見上げると天井に大穴。瓦礫を登れば行ける。
〈手間が省けた。突入するぞ〉
 ドリルマン、続いてナパームマン、ヒートマン、ボンバーマンらが上階に上がろうと試みる。一番手でドリルマンが二階の床にかけた、その手に何かが触れた。
(何だ?)
 布地のようだった。どうやら階上は生地店らしい。
 彼は構わずよじ登り、布地の上にどさりと身を投げ出した。
 途端、びちゃりと湿った感覚。全身にびりびりと異常な痛みが走った。
 慌てて起き上がると、布地に触れていた胴体の前面がびっしりと錆び付いている。
「うわっ、あ、あ」
 酸だ。
 彼は悲鳴を上げ、まとわりつく液体を振り落とそうとのた打った。
 その弾みに登ってきた穴を踏み外し、左足が空を切った。

  *  *  *

 交信を通して、脳をつんざく悲鳴。
 二人は思わずフリーズしかかった。なんだ、今のは。
〈おい、誰の声だ今の〉
〈ジェミニ……とドリルマンだね〉
 沈黙。
〈やられたのかね〉
〈わからん。こんなに早くにか?〉
 知らず不安げな顔を見合わせる。
〈あっ〉
 バブルマンが弾かれたように前方を見透かした。
 エレキマンもびくりと視線を追う。
 浄水パイプをふさぐ、明らかに不自然な影。
(待ち伏せ!)
 二人は踏みとどまろうともがいた。が、水流は容赦なく二人をそちらに押し流していく。
 バブルマンがとっさに特殊武器を発射した。バブルリード。泡に擬態した機雷だ。
 どん、と破裂音、すさまじい重圧がくる。
(やったか?)

  *  *  *

 地響き立てて突撃してくる相手を前に、ジェミニマンは思わず目を閉じた。
 ずううん、と重い衝突音。
 痛みは来なかった。
(…………?)
 目を開けると、頭上でウッドマンが相手の巨体を押しとどめている。
〈逃げろ! ジェミニ、逃げろ〉
 と、相手……戦車のようなロボットが、その頭の砲台をついとウッドマンの体に向けた。
 やめろ。
 声がでない。
 轟音。
 死に物狂いで翻したその身をかすり、相手がごり押しで突っ込んでいく。火だるまのウッドマンが物のように飛ばされ、壁に激突した。
「ウッド!」
 それを聞いたか、バリケード手前でくるりと反転した相手がジェミニマンの方を向いた。
 かち合う目と目。
 がっと体が熱くなる。
 許さない。
 知らず、腹から声が出た。
「野郎、来やがれ」
 ジェミニマンの姿が、ばっと幾重にも分かれていく。ホログラフ。
〈くそッ、任せるぞ〉
 その脇をすり抜け、クイックマン、タップマン、ジャイロマンが突破した。
 直線距離にして百メートル。ここを駆け抜ければ目標地点だ。
〈飛ばすぞ、タップ〉
 クイックマンは一気に速度を上げた。
 が、その横っ面を何かが強打した。
「がッ」
 横にいたタップマンを巻き込み、もんどりうって転倒する。跳ね起きると、たった今まで走っていた連絡通路から、吹き抜けをまたぐ空中通路の中ほどまでに弾き出されていた。
 その道をふさぐのは、
(……子供?)
 猫のような姿をした幼いロボット。その目はこちらがひるむほど険しい。
 こいつの仕業だ。
「……どけ!」
 一気に押し通ろうと、構えたブーメランを一振りする。
 が、相手の姿が掻き消えた。
 いや、脇の手すりの上にいた。と思う間もなく、すさまじい加速の蹴りが横殴りに入った。
 思わずよろける。まさか。こんなチビが。
(くそッ)
 彼が体勢を立て直す間に、タップマンが空いた通路を駆け抜けようとした。途端、再び蹴り。
 うおおおお、吼えるような声を上げ、クイックマンは相手を追った。
 が、捉えられない。
 速い、のではない。身軽なのだ。ブーメランの切っ先、タップの軌道、そして二人の動線、全てをかいくぐって宙を舞うような猛攻が来る。
 通路から強引に突っ込もうとするクイックマン、裏をかいて手すりを行こうとするタップマン、どちらのスピードも大振りすぎて、相手の小回りについていけない。
 二人は今、ぴたりと空中通路に釘付けになっていた。

  *  *  *

 クイックたちが止められた。陸路は駄目だ。
 ジャイロマンは背のローターを駆動させ、空中に舞い上がった。
 その体に、どーんと体当たりを喰わされた。
 体が軽々と吹っ飛ぶ。危うく壁にぶち当たる寸前で体勢を立て直すと、眼前に影があった。慌てて身をかわし、急上昇する。
 いい加減離れて振り返り、初めて相手が見えた。
 緑色の、鷹のようなアーマーのロボット。
 それが、どんと背中から火を噴いた。信じられない急加速で一気に迫る。
 動転して避けた。ジェット飛行タイプだ。勢いでは勝てない。
 吹き抜けを縦横無尽に飛び回る、死の鬼ごっこが始まった。

  *  *  *

 どっと音を立て、ドリルマンが一階のガレキに転落してきた。
「ドリル! どうしたッ」
 上りかけていた本隊のメンバーがパニックに陥りかける。
「待て、落ち着け」
 とっさにウェーブマンが水流でドリルマンの酸を押し流した。が、彼の体表はすでにただれ切っている。
「ひでえ……」
 ボンバーマンが顔をしかめた。
「彼は他の怪我人と一緒に僕が連れて行く、だから早く」
 ダストマンが背後から声をかけた。
「任せた。行くぞ」
 一同は上部の穴から再度突入した。
〈……うわ、気をつけろ。酸だ〉
 できるだけ乾いた手がかりを辿って二階の生地屋に上がりきると、すぐ奥に通路への出口が見える。
〈よし、あそこから行ける。上階行きの階段に回るぞ〉
 その口を目指しばらばらと走り出した、誰かのその足がぴんと張った糸らしき何かに触れたと思った……
 瞬間、周囲に山と積まれていた布地が、それに染ませた酸のしぶきをあげて津波のように雪崩れ落ちてきた。
「ぎゃああああ!」
 酸の大波と化した布の渦に呑まれ、先発の数名の姿が消えた。
 あまりのことに凍りついた後続の頭上にぽたぽたと何かが落ち、そこからひりつく痛みがじわりと広がった。
 ぞっと跳ね退いて見上げると、格子状に装飾された天井のその網目を酸のしずくが伝っている。
「罠だッ、見られてるぞ」
 誰かの叫びで部屋中が恐慌に陥った。
 その混乱の中、ウェーブマンは慌てて再度の水流を試みた。どっとばかりに押し寄せた水が酸と布地を流し、上ってきた穴に落とし込む。
 もう少しだ。気が緩んだ瞬間、傍らの水が不自然に跳ねた。
(え)
 確かめる間もなく、彼は水中に引きずり込まれた。何だこれは。ようやく事態の異常を悟ったときには遅く、その「水」は彼の防水を突き破り、首もとのメインケーブルを一気に刎ねた。
 ウェーブマンのダウンと共に水流も一気に止まり、酸の強襲を免れた一同はがばと起き上がる。
「ウ、ウェーブが」
 横たわるウェーブマンにエアーマンが駆け寄ろうとした、その足元にばしゃりと酸塊が跳ねた。
「うわっ」
 慌てて飛びのいたその前方、出口をぬらりと影がふさぐ。
 半魚人のような奇怪なシルエット。その右手からごぼっと酸が湧く。
「敵襲ーッ!」
 とっさにエアーマンはわめいた。その声に、半ば傷ついた仲間達は反射的に武器を構える。
「野郎」
 マグネットマンがボムを投げつけたが相手は無造作に身をかわし、どっと酸を撃ち出した。一同は浮き足立って逃げ惑う。ウェーブマンがいない今、食らえば致命傷だった。 
「こいつッ」
 スパークマンが両腕の電極を濡れた壁に差した。その腕を、壁がぐいと掴んだ。
「わ……」
 仰天して引いたその腕を、壁から生えた二本の手が握り締めている。悲鳴を上げる間もなく、それは彼を一気に引き寄せて細い胴部ジョイントを両断した。
 真っ二つになって地に転がるスパークマンに、周囲は蜘蛛の子を散らすように跳びすさった。
「気をつけろ、別のが居やがる」
 どこに。一体どこに。血走った目を周囲に走らせれば、たちまち横合いから酸の弾丸が飛んでくる。焦ってのけぞればもう一つの影に襲われる。
 容赦なく体力が、装備が削がれていく。修羅場だった。
「くそッ」
 そのただ中、ナパームマンが渾身の力で投げた爆弾が轟き、出口横の壁を吹き飛ばした。
 それを目にしたふたつの影は、ちらりと互いを見交わして素早く部屋から走り出た。
「待ちやがれ」
 痛む体を引きずり、一同は必死で追いすがる。
 ふたつの影は通路の逆方向に分かれた。片方は通路を右に突っ切って目的とは逆の北側へ、もう片方は通路を左に進んでさらに右折し、吹き抜けに出る方向へと消えた。
 どうする。一同はとっさに目を合わせ、二手に分かれた。

  *  *  *

 八方から猛烈な水圧がかかる。錐揉み状になりながらバブルマンは体勢を立て直そうと必死だった。
 バブルリードは決まった。間違いなく決まった。だがこの爆圧は何だ。ここまで無茶な設定はしていない。
 考えられる理由はひとつ。
 相手も同時に爆弾を使ったのだ。それも、彼のと同じように泡に擬態して。可能性は限りなく低いが、他にあり得ない。
 力尽きかけたか、流される寸前のエレキマンが視界をよぎった。思い切り手を伸ばしてその腕をつかんだとき、もう片方の隅で何かが動いた。
 敵だ。直感し、空いたほうの腕で武器を構える。あちらもダメージは大きいと見え、ふらふらしている。
 と、その両手から不自然な泡がぷかりと膨らんだ。
 あれだ。
〈エレキマン〉
 バブルマンはとっさに通信で呼びかけた。
〈起きろ! サンダービームだ、撃て〉
〈待て、それじゃあんたも〉
〈見たろ。僕のエモノじゃ相打ちだ、早く〉
 言うなりバブルマンはスクリューを加速させ、敵を目掛けて突進した。
〈くそ、死ぬなよ〉
 エレキマンは目をつぶり、ぎりぎりまで出力を上げた電撃を放った。

  *  *  *

 二つの影のうち吹き抜け側に逃げた方は、目指す三階行き階段へのドアに飛び込んだ。アイスマンが続こうとした瞬間、
「待てッ」
 それを押しのけ、ニードルマンが乗り出した。その頭上に、壊れた壁がうなりを上げて降ってくる。派手な音を立て、頭のニードルがそれを突き砕いた。
「へん、同じ手喰うかよ」
 エアーマンが見上げると案の定、螺旋の上階にあの牛型のロボット。待ち伏せていたのだ。
「突破するぞ! ボンバーマン、ヒート、ぶっ飛ばせ」
 その声に踏み込んだボンバーマンの投擲に、ヒートマンが炎を撃ちつけた。
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