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アサドリの日記帳です。主にロックマンと日常。



ダイナとシャドウの小説を発掘したので。
とか言ってアップ済みだったらどうしよう。




 ワイリー基地にも年末の納会はある。納会があるからには無礼講の酒盛りがあり、呑めや歌えのどんちゃん騒ぎがあり、全員参加のならわしがある。
 ならわしがあるからには、従わない者もある。

 時ならぬ呼び鈴にモニターを見やったシャドウは、ぱっと――彼にしては実に珍しく、ぱっとドアを開けた。
 やあ、寒い寒い。廊下の冷気をもろともに、大柄なヒト型ロボットが滑り込んでくる。両手には宴会場からつまんで来たと思しい、ロボット用ケータリング料理の皿。太巻き寿司と唐揚げは(歳相応に)シャドウの好物だ。
「ありがとうございます、ダイナさん」
「お腹空いてるだろ、レンジ借りるよ」
 ロボット――ダイナマンは、シャドウへにっと笑ってみせた。

 従わない者があるからには、隠れ場所がある。
 ワイリー基地別館。増築に改築を重ねてさながら巨大迷路のその一隅、人も通らぬ奥の奥の一部屋が、シャドウにとってのそこだ。
 仲間と共に基地へ引き取られ、紆余曲折の末どうにか馴染んできたと思われた頃、彼はときどきふっと姿を消すようになった。
 父も、新しい「兄弟」たちも、初めはもちろん慌てて探した。が、彼は二時間かそこらで何事もなかったように現れ、別館の部屋にいたと言った。
 それが幾度か続くと、慣れたこともあり、特段の問題もなかったので、気にする者はなくなった。

「みんな、どうしてます?」
「相変わらずさ、にぎやかでにぎやかで。ただ、コンパス君が探してたけど」
「......ここのことは」
「ん、言ってないよ。そのうち戻るとしか」
 そのときレンジが鳴り、ダイナマンはやや大げさに、そろりと熱い皿へ手を伸ばした。

 隠れ場所があるからには、同じ穴のむじなが集まる。
 ダイナマンがそうだ。シャドウと同じく、父ワイリーが心ならずも手放し、孤立無援のまま暮らしてきたワイリーロボットの一体である。
 二人とも、ふだん格別一緒にいるわけではない。頻繁にこの部屋へ来るわけでもない。
 が、ここが必要だった。
 自分を捨てた父に対して、いまだ割り切れないもののある二人だ。割り切れなさを割り切れないままに放っぽりだしていたかったのだ。
 父と、父を愛している誰の目にも触れない場所で。

 予想はしていた。が、我慢はしていられない。かじりついた唐揚げはやっぱり熱く、シャドウは変な唸り声を出しながらちびちび食べ進んだ。
「全部いいよ、俺は向こうで食べちゃったから」
 ダイナマンの苦笑いは弟へのそれで、自分も彼の「弟」に含まれているんだろうなとシャドウは思う。製造年代から言ってもその通りだし。
 そう言いつつ、ダイナマンもきっちりネギトロ巻きをつまんでいる。アメリカ育ちのくせに生魚(的なロボット食)は大好物なのだ。
 食い散らかしながらの雑談の中身はたわいない。納会でだれそれが演った今年の一発芸だとか、流しっぱなしのカラオケの曲順だとか、その間に飛び交う噂話だとか。きっと今も進行中の大騒ぎのあれやこれやだ。
 でなければ、その中に置いてきた仲間の話だ。シャドウは共に生きてきた親友たちの、ダイナマンは同じロットの兄弟たちの。

 彼らに、二人がこの部屋を知らせることはないだろう。みな、父たる、あるいは義父たる、ワイリーを心の底から慕っていた。それを今さら否定したくはなかった。

 そして、この部屋へ触れられたくもなかった。
 どうしようもないことがあるのだ、この世には。

 雪です。ああ雪だね。寒いわけだ。
 窓の外の闇を白いものが落ちてゆく。重そうな牡丹雪だ。
 二人の通信回路へは、さっきから個別に幾度もコールサインがあった。酔っ払った兄弟や友人、そのほかの仲間。
 今またぽつりと一通、これは二人宛に来た。あのひとからのものだ。
 寒いから早う戻らんかい。
 ただそれだけ。多分もう来ないだろう。今はそういう間柄だ。
 彼の話題は、今日この部屋では出ていない。というか、出していない。
 ダイナマンが口を開いた。
「五分したら戻ろうか」
「そうですね」
 二人して、食べつくした残骸を重ねる。紙皿と紙コップのこと、あっさりと小さなビニール袋にまとまった。

 五分したら灯りを落とし、自分たちはこの部屋を出るだろう。
 というからには、あと五分はここに居座る。
 そういうことだ。

(了)
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