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アサドリの日記帳です。主にロックマンと日常。
2024/04/20  [PR]



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続けざまに上げます。あと1回で終わり。

かっこいいナンバーズは出てきません。
あと、今回ロールちゃんがフォースの暗黒面に堕ちます。



レリクト12
 プロローグ~第二章
 第三章
 第四章
 第五章 追撃



第六章 混迷

「裏口?」
 メタルマンはおうむ返しにつぶやいた。
〈そうだ、マップにはないが、非常階段に通じている〉
 通信を送ってくるエレキマンの表示が不規則に点滅するのがメタルマンにも解った。部屋から階段へ出入りしているらしい。
〈実際の地形と合っていないから、バグって非表示になるんだな。行方不明はこのせいだろう〉
〈じゃ、四階の人質出現もここを通ったせいだね〉
 腑に落ちたらしいアイスマンの声。
 一瞬の沈黙。
「説明してもらおう」
 チャンネルを変え、メタルマンは低く言った。
〈も、申し訳ない。恐らく記載ミスだ。すぐに正しい地図を手配する〉
〈当たり前だ〉
 慌てた声の高官に言い捨て、メタルマンは生き残った全員に通信を送った。
〈ハード、まず人質を連れ出せ。エレキマン、ジェミニはその三階非常階段を押さえろ。エアーマンたちも二階非常階段へ向かえ。待機メンバーも下から回る〉
 一呼吸空け、彼は声を張り上げた。
〈挟み撃ちだ、封じ込めるぞ〉

 *  *  *

 その言葉は待ち望んだ物のように、すとんと彼女の心に納まった。
〈――わかりました〉
 相手の送ってきた3Dマップ情報に、ロールは自分の位置情報をリアルタイムで重ねた。彼らがどこへ逃げようと、これで行方は筒抜けになる。
 許さない。

 *  *  *

〈ダイブマン〉
 ビル外待機組のクリスタルマン、ファラオマンと共に裏口へ急ぎながら、メタルマンはすぐ横のダイブマンに声をかけた。
 実声ではなくダイレクト通信である。誰にも聞かれたくなかった。
〈俺以外の全員の目を盗んで、裏の雑居ビルへ回ってくれ。例の非常階段向かいだ〉
〈何? お嬢様はどうするのだ〉
 予想通り、ダイブマンが気色ばんで聞き返してくる。
〈どうも腑に落ちねえ事があるんだ。手伝ってくれ〉
〈しかし〉
 食い下がる相手に、メタルマンは目配せした。
〈頼む。詳しくは動きながら話す〉
〈りょ、了解した。公開情報はどうする〉
〈そうだな、俺以外には非公開にしといてくれ〉
 首を傾げつつ、ダイブマンがそっと集団を離れ、細い路地に入る。それを横目に納め、メタルマンは率直に言った。
〈踊らされてるかもしれねえぞ、俺たち〉

 *  *  *

〈君以外、そこには何人いる〉
〈人質は、私の他は友達――人間の女の子一人です。……敵は〉
 一呼吸ほど空いた。敵などという語彙を本心から使うのは、生まれて初めてだった。
〈敵は、四人。うち一人は重傷者で、自分では動けません。他には……〉
 ゆっくりと沸き上がる吐き気のような高揚感。復讐に手を貸せる誇りかと思ったが、むしろ畏れに似ていた。もう後戻りできない。
 ロック、守って。最後まで私が立っていられるように。
 身を支える手すりを握りしめ、ロールは通信を送り続けた。

 *  *  *

〈どういうことだ〉
 避難が済んで人気のない雑居ビルに忍び込みながら、ダイブマンが返した。
 メタルマンは手短に話して聞かせた。敵ロボットたちの状態、その計画性のなさ。
〈こんな状況で、テロなんか起こすか〉
〈……む、確かに。テロリストと決めるにはちと性急かもしれんな〉
〈疑問はそれだけじゃねえ〉
 ビル裏の非常口にほど近い角にたどり着き、仲間とともに様子をうかがいながらメタルマンは続けた。
〈さっきの館内マップ、ビル会社がわざわざ間違ったモンなんかよこすか? 自分たちで日々使ってる地図だ、ミスがあったとしてもとっくに気づいて修正してるはずだろ。それをそのまま国安省に出しゃいい〉
〈なるほど。……ということは〉
〈ビル会社か国安省か、どっちかがわざと細工しやがったんだ。その証拠に、単純ミスのくせしてまだ正しい地図が来やがらねえ〉
〈ふむ。どうやら、お前の言いたいことが見えてきた〉
 ダイブマンの視覚情報が送られてきた。潜望鏡で覗いているらしく、少し画像がざらついている。雑居ビル三階。通りを挟んで向かいに見える駅ビル裏手の壁面は――
 階段こそ見えないものの、明らかにそれを匂わせる斜めの窓。四回から一階まで、ジグザグに切れ目なく続いている。
〈国安省が黒いな。階段がねえなんてバレバレの嘘、この窓知ってたら怖くてつけねえよ。――何企んでやがんだ〉

 *  *  *

〈二階まで来ました。ロボットたちは周りを確かめているみたいです〉
 頭上の窓にちらっと目をやりながら、ロールは通信を送った。
〈よし。こちらも狙撃手の配備が済んだ。リーダーが非常口を出たところを見計らって、裏の雑居ビルから狙う。引き続き動向は報告してくれ〉
〈……はい〉

 *  *  *

〈で、どうする〉
〈そのまま見張ってくれ。他に何か見えるか〉
〈待ってくれ〉
 少しの間を空け、再び視覚情報が来る。
〈見えるか〉
〈ああ〉
 駅ビル裏、メタルマンたちとは反対側の角。
 都市迷彩に身を包んだいくつもの人影が見える。
〈ふん。民間人避難ラインからこっちにゃ来らんねえハズじゃなかったのか〉
〈やってくれる。連中が動けないしわ寄せを我々がどれだけ引っかぶったと思っているのだ〉
 メタルマンからは死角だが、ダイブマンからはよく見えた。迷彩服の人影たちから非常口までは二メートルもない。明らかに、非常口の存在を知った上で中のロボットたちを待ち伏せている。
 メタルマンは国家安全省の担当高官にチャンネルをつなげ、わざと怒鳴ってみた。
〈どうなってやがる、マップはいつ来るんだッ〉
〈ま、待ってくれ。ビル管理会社が修正している〉
 返事を待たずにチャンネルを切り、ダイブマンに尋ねた。今のやりとりは彼にも流している。
〈聞いたか〉
〈聞いた。確定だな〉
〈連中、マップ握りつぶして俺たちを当て馬にしやがった。はなっからここでロボットどもを待ち伏せする気だったんだ〉

 *  *  *

〈狙撃手の配備は終えた。まだ二階にいるのか〉
〈はい、動いてません。……戦車みたいなロボットが物陰から窓の外を伺ってます〉
 通信を通ってゆく声は遠く、自分のものとも思えなかった。
 ふと、右手を握られる感触。そちらを向くと、隣に座るカリンカと目が合った。
 そうだ、彼女は知らないのだ。ロックの身に何が起きたか。自分たちを捕らえているのが一体何者なのか。
 しかしそうあってさえ、隣の彼女は気遣わしげな顔をしていた。先ほどからの自分の異常を察したのだろう。もとより年の割に大人びて、気の回る友人だった。
 むろん事実を口に出すことは許されない。それはそのまま自分と彼女の命に直結する。だが打ち明けたかった。全てを話し、ただ寄り添ってもらいたかった。
 ロールは彼女の手を握り返した。何も言えぬまま涙だけが溢れてきた。
 カリンカがそっと背をなでてくる。ロボットたちの目を盗んでいるに違いない、密やかな手。ただ温かく恋しかった。失いたくなかった。
 と、半魚人ロボットが子供を床に降ろした。他の二体と共に周囲を伺っている。
 異変が起きたのか。助けが来ているのだろうか?
 ロールがちらりと考えたその横で、子供が猫のような声を立てた。微かな声。見ると、上がらない腕を弱々しく動かしている。ほとんど見えないらしいその目が半魚人ロボットを追っていた。
 心細いのだ。
 よく分かった。今の自分にはそれがよく分かった。そして、分かってしまうその事が疎ましかった。
 やめて。やめてよ。これ以上苦しめないで。だってあなたたちは、彼を。

 *  *  *

〈マップ修正で時間稼いで先越そうってハラだな〉
〈くそ、そうなったら介入の手だてはないぞ〉
〈冗談じゃねえ。今になって油揚げかっさらわれてたまるか〉
 メタルマンは歯ぎしりする思いだった。深手を負い、今も建物内に取り残される仲間たち。これだけ痛い目を見せられた後で容認できる話では到底ない。
〈第一、人間が武器を持ったところでかなう相手ではないぞ。下手をすればお嬢様まで〉
 ダイブマンも悲痛な声を上げる。
 国家安全省の狙いは分からないが、是が非でも止めねばならない。
 だが、どうやって。
 相手にぶちまけても言い抜けられるのがオチだ。と言って仲間に打ち明けることもためらわれた。謎のロボットたちに対して有利とは言えない今、これ以上士気を下げるのは自殺行為に等しい。何より一歩間違えば国家安全省含めて三つ巴になる。
 メタルマンが頭をかかえた時、
〈あッ〉
 通信でダイブマンの大声。

 *  *  *

 隣から、静かなハミング。
 言葉はないが、柔らかい、聞き覚えのある旋律だった。先ほど半魚人ロボットが歌っていたあの歌だ。
 自分の背に触れたカリンカの手が、それに合わせて動くのをロールは感じた。自分とこの子供と、同時に慰めようとしているのだ、彼女は。
 子供の目がおぼつかなげにこちらを向いた。沸いた怒りは一瞬で、すぐに空虚さが取って代わった。憎しみは消せない。が、この子も目の前で苦しんでいる。
 どうしてこうなってしまったのだろう?
 カリンカに合わせ、やがてロールも小さく歌った。救われたかった。
 意味は分からないながら、先ほどの歌を思い出し、同じように発音を繰り返し――
 不意に、すさまじい力が腕を握りしめた。そのまま体ごと宙に引き上げられる。
 目の前に隊長ロボットの顔があった。眉間に微かな縦じわが寄っているが無表情に近い。据わった目だった。
 その目が、すっとロールの腕に移る。
 つられてそちらを見た彼女は凍り付いた。強く掴まれたショックで人工皮膚が破れている。
 痛みはない。が、そこから覗く、人工筋肉、むき出しの配線、金属の骨。
 隊長機の目がつり上がった。口元は大きく歪み、犬歯がむき出しになる。
 恐怖と共に彼女は三つのことを悟った。
 心得のない言語の歌を一度聞いただけでその発音を再現できる人間は、まず存在しないこと。
 隊長機は自分に手心を加えていたのではなく、単に人間と思いこんでいただけであること。
 そして、彼らが味方以外のロボットに決して容赦はしないであろうこと。

 *  *  *

 どうした。聞き返そうとした瞬間にダイブマンから視覚情報。メタルマンも確かに見た。
 窓の中、突如立ち上がった隊長機。その右手が吊り下げているのは、見覚えのある金髪の少女……ライトナンバーズ、ロールだ。
 そしてその足元、必死で取りすがっているもう一人の少女は――
 そこまで見て取った途端、耳を聾する破裂音。

 *  *  *

 ロールの眼前で、隊長機の横顔が弾ぜた。同時に炸裂音、自分の体が吹き飛び全身に強い衝撃。
 目を開けると、床に転がっていた。体にすごい重さがかかっている。身をよじって見ると、自分の上で共倒れになる格好でぴくりともしない隊長機――
 その顔の、ほぼ左半分が消し飛んでいた。
 喉から悲鳴がほとばしった。同時に直感した。国家安全省の狙撃手だ!
 ヘたり込んでいたカリンカがこちらに駆け寄ってくる……
 そのカリンカを、戦車のようなロボットが無造作にすくい上げ、窓に掲げた。
 その意図を察し、ロールの声は今度こそ出なくなった。

 *  *  *

 止める間もなかった。轟音と共に、メタルマンの肉眼は雑居ビルの窓から発射された極小ミサイルの航跡が非常階段へ突っ込むのを見た。
 同時に、彼は自分が完全な人選ミスを犯したのを悟った。
 メタルマンがダイブマンを雑居ビルに回したのには二つの理由がある。現行メンバーの中では潜行に長け、そもそも見張りに適していること。そしてもう一つは、カリンカに肩入れし過ぎていることである。
 人質と至近距離で対峙した場合、動揺して見境をなくすのではないか。そう思い、あえて突入部隊から外したのだ。
 だが、その目論見は甘すぎた。
 どうする。頭を巡らそうとしたその時、ダイブマンから中継された視界のビルの窓に、ひょいとカリンカが現れた。
 全身がぞっと震えた。ダイブマンの悲鳴。
〈――撃つな!〉
 通信越しにメタルマンが叫ぶと同時に、カリンカの横から砲身。間髪入れずそれが火を噴く。
 直後、ビル間を逆に横切る弾道。ほんの一瞬ダイブマンの絶叫、通信が途絶えた。

 *  *  *

 カリンカが耳を押さえ、床にくずおれている。
 その横には、たった今まで活動していた隊長機。その秀麗とも言える顔が無惨に打ち砕かれ、内部機構をむき出しにしている。
 違う。そんなつもりじゃなかった。ここまでは望まなかった。
 が、自分が手を貸したことで引き起こされた結果がこれだった。
 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
 声も出ないまま、ロールはただ震え続けた。

 *  *  *

 間をおかず撃たれた二発の轟音、控えていたメンバーは思わず身を縮めた。
 向こうの角からも大きなどよめき。見ると、迷彩服の人間たちが姿を現している。
「なんだ!? 人間じゃないか」
 事情を知らないクリスタルマンがうろたえた声を上げる。メタルマンは口を開きかけたが、けたたましい足音がその声をかき消した。
 階段を駆け降りる複数の足音。非常階段からだ。
 先手を打つように迷彩服が動いた。彼ら側の角からドアの間近まで素早く展開する。
 非常ドア向こうに気配。センサーなど不要なほど、それははっきりと知れた。
 ふと嫌な予感。
 無茶な。だが連中ならやりかねない。とっさにメタルマンは走った。
「どうした」
 背後からファラオマンの声。続いて走り出しかけている。
「来るなッ」
 叫ぶや、メタルマンは戸口の迷彩服に体当たりした。
 合わせるように三度目の爆発音。

 *  *  *

 三度目の爆発音、メタルマンの通信が途切れた。
 指令塔がやられたか。ビル内部のメンバーは瞬時に決断した。三階からはエレキマンとジェミニマン、二階からはエアーマン・カットマンら四人が、それぞれドアを蹴破って非常階段へ突入した。

 *  *  *

 背後から地になぎ倒され、メタルマンは一瞬意識を失った。
 目を開けると、もうもうたる土煙。ドアごと吹き飛ばしたのだ。すぐ横で、命拾いした迷彩服が青ざめている。
 敵はどうした。立ち上がろうとした右足に激痛、見ると膝裏に鉄片が突き刺さっている。痛みより恐怖に襲われながら、それでも彼は両手にブレードを構えた。
 周囲が大きくどよめいた。粉塵の中にいくつもの影。同時にさあっと風、いちどきに視界が晴れた。
 そして、その場の全員が彼らをまざまざと見た。
 全身に無数の傷を刻んだロボットたち。
 魚を思わせる一体は大破した小柄な一体を抱え、武器と思しき右手をぐっと構える。戦車の巨躯を持つ一体は全身の砲門をこれ見よがしに開き、辺りを威圧する。そして彼に支えられた長髪のロボット――「隊長機」は顔半分をごっそりと失い、それでも鬼神の目で周囲をねめつけている。
(何という奴らだろう)
 のしかかるような、そのすさまじい重圧。
 場の空気は明らかに変わっていた。見れば味方の誰もが竦み上がっている。こんな者たちを相手にしていたのか、自分たちは。
 戦車型のロボットが、すっと右手を動かした。その腕の銃口の先には。
「お嬢様」
 ファラオマンの悲鳴。
 見間違えようもない。行方知れずだった最後の人質――カリンカとロール。
 気も遠のく絶望感。完全に詰んだ。数をたのんで押し切れば人質は助かるまい。
 ロボットたちを中心に包囲網が凍結した。神経のすり減るような膠着。
「待てッ」
 それを突如一声が破った。
 全員が弾かれるように反応した。ドアの吹き飛んだ非常口に新たに現れた姿。
 ――マグネットマン!
 いや、一人ではない。ビル内にいた二、三階メンバー六名全員が追いついたのだ。
「人質に手を出すな、武器を捨てろ」
 大声で呼ばわり、ジェミニマンとスカルマンが前へ出る。
 彼らは何かを支えていた。まるでがらくたのように力を失ったそれは、暗色のアーマーを身につけた人型だ。
(あいつか、拘束した敵ロボットってのは!)
 カットマンが、その首にぐいとカッターを突きつけた。周囲から喜びのどよめき。うまいぞ、これで五分と五分だ。メタルマンが思わずブレードを握りしめた瞬間。
 人質の敵ロボットが、ぐいと頭を振った。
 ざくりと切断音。
 カットマンが手を引く間もなく、人質のその首元にカッターが根元までめり込んだ。
 そのまま、その頭ががくりと垂れる。
 自決だ。あまりのことに誰もが言葉を失った。
 と、隊長機の顔から不自然なほどに表情が消えた。
 ぎょっとしたメタルマンの眼前できりりと歯ぎしりが響き、その眉が強くしかめられてゆく。
 初めて見る表情にも関わらず、メタルマンはその正体を知っていた。
 激怒だ。
 隊長機が、少女二人の髪をぐいと掴んだ。ひきつるような悲鳴。動揺は周囲の円陣全体に波及し、一同は泡を食って後ずさった。
 その時、国家安全省側が押されたように大きく動いた。人垣がわっと二つに割れる。
 何が起こった。うろたえて目を向けたナンバーズは、二分された人の群れの奥に置かれたモノを見た。
 ロッカーかと最初は思った。白く大きな箱状の何か。だがよく見るとその表面は微細な彫刻で飾られている。まるで棺桶を思わせた。
 その蓋が手前に開いた。
 中には、眼を閉じて佇立する、一体の――
 ――ロボット?
 確かにロボットだ。傷も汚れもなく、まるで昨日今日造られたように新しい。
 が、なんだ。これは。
 その姿は一瞬、美術品に見えた。
 自分たちとはおよそ似つかない骨董的なフォルム。手工芸を思わせる細かい文様がその要所を彩り、全体として太陽をイメージさせた。
 新兵器か何かか。それにしては奇抜すぎるデザインだ。現代ロボットの主流からは、明らかにかけ離れている。
 が、事態はメタルマンにそれ以上考える間を与えなかった。
 うめくような声。振り返ると、隊長機始め敵ロボットたちが後ずさっている。
 その表情が一変していた。みな一様に、恐怖。それも明らかにそのロボットを識った上での。
(…………?)
 不審が浮かんだ。どうした。何に怯えている、こいつら。
 次いで、もっと大きな疑惑。
 ロボット工学の最先端にいる(少なくともそう自負している)自分たちの知らない兵器を、なぜこいつらは知っている?
 脇に控える国家安全省の文官が何事か命じた。
 呼応するようにロボットの目が開く。次いでその足が静かに動きだした。
 意味の分からない叫びをあげ、敵ロボットたちが一斉に武器を構える。捨て鉢に見えた。対照的に、ロボットはゆったりとした歩みだった。戦う前だというのに、勝者の余裕すら見える。
 つとロボットが足を止め、微かにほほえんだ。この場におよそふさわしくない柔らかな笑み。
 だが、それはなぜかメタルマンの背筋を寒くさせた。言葉にはできない、しかし、途方もない不吉さ。
 ロボットが右手を軽く上げた。その人差し指の先端を親指に合わせ――
 ぱしん、と宙を弾いた。
 瞬間、二十メートルは遠くにいた戦車型ロボットの巨体が、弾丸に当たったざまで吹き飛んだ。
 誰もが言葉を無くした。物理攻撃の気配はなかった。エネルギー弾のたぐいも見えない。
 なのに、こんな真似が。
 と、ロボットの掌が微発光しているのにメタルマンは気づいた。いつの間にか、そこに小さな光球が宿っている。
 見る間にそれは大きさを増した。ビー玉程度だったものがテニスボールほどになり、サッカーボールほどになり、なおも止まらずに膨れ上がっていく。
 周囲から動揺の声。半魚人ロボットが隊長機の腕に子供を押しつけ、彼らと人質を庇うように立ちはだかった。国家安全省の人間たちまでもが、なぜか後ずさり始めている。
「メタル、やばいぞ」
 隣のクリスタルマンがささやいた。切羽詰まった声だったが、言われるまでもなく分かっていた。
 とてつもなくまずいことが起こりかかっている。国家安全省は何かを間違えたのだ。
 ロボットが手を頭上に掲げた。一斉に恐怖の悲鳴が沸き起こる中、その頭上の光球がぐっとまばゆさを増した……
 まさにその瞬間、全く別の方向――空中からさっと一つの影が躍りこみ、ロボットの前に立ちはだかった。
〈――――全員、止まれ!〉
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